慢性腎臓病(CKD)と透析

6. 血液透析・CAPD・移植

末期腎不全になった場合の治療法には、「透析療法」と「腎臓移植」があり、透析療法には「血液透析」と「腹膜透析(CAPD)」の2つがあります。
それぞれに長所と短所がありますので、生活スタイルに合った治療法を選択できます。
現在、約95%の患者さんが血液透析を行っており、約5%の患者さんがCAPDを行っています。また2つを併用することも可能です。
2014年の臓器提供による腎移植件数は約130件で、ここ数年は減少傾向です。

7. 血液透析の原理

血液透析は、「半透膜」を介した主に「拡散」と「濾過」、一部「吸着」という物理的な原理により行われます。
半透膜は薄い膜で大小様々な孔が開いており、孔の大きさで除去される物質が決まります。

「ダイアライザー」と呼ばれる「人工腎臓」は半透膜で造られた1万本以上の細い管で構成され、管の内側を血液が流れ外側を透析液が流れます。

拡散は溶質が均等に拡がる現象で半透膜の内側(血液側)に数多く存在する溶質は外側(透析液側)に向けて移動します。逆に外側に数多く存在する溶質は内側に向けて移動します。小さな溶質ほど半透膜を通過しやすい特徴があります。
濾過は圧力の差により水と溶質が移動する現象です。
通常は半透膜の血液側の方が圧力は高く、圧力差により水と溶質は透析液側へ移動します。
溶質は大きさに関係なく移動するのが特徴です。また一部の半透膜には膜表面に溶質を吸着する性質があります。

8. 血液透析の実際

他で説明

9. 血液透析と合併症(貧血・骨代謝・PAD・脳心血管系疾患)

貧血

腎機能の低下により腎臓で産生される造血ホルモン(エリスロポエチン)の分泌が減少することと、尿毒素や血液透析による影響で赤血球の寿命が短くなることが主な原因です。
また血液透析を行った際の回路内凝固や残血が影響する場合もあります。
治療法としてはエリスロポエチンの静脈注射や鉄剤の投与を行います。

骨代謝

リン・カルシウム・副甲状腺ホルモン(PTH)・活性型ビタミンDの異常により、繊維性骨炎や骨軟化症などが起きるだけでなく、全身の血管石灰化が進み生命予後に大きく関係することから、「CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常症)」という概念が生まれました。

PAD(末梢動脈疾患)

透析患者さんは糖尿病の有無に関わらず、下肢動脈の血流障害が高い確率で発症します。
これはCKD-MBDによる血管石灰化が主な原因です。

脳心血管系疾患

透析患者さんの死因の第1位は心不全ですが原因は様々です。主な対策としては塩分、水分の制限による体重管理、血圧のコントロールなどがあげられます。
また虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞など)にはCKD-MBDによる冠動脈の石灰化も大きく関係しています。

10. 血液透析のポイント

充分な透析の必要性(透析効率と長期合併症予防)

一般的な週3回4時間透析は、正常な腎臓の1割程度の働きしかありません。施設での透析回数に制限のある現在(1か月14回まで)、十分な透析効率を確保するためには出来るだけ透析時間を延長することが有効です。 様々な調査でも4.5時間以上の透析を行っている患者さんの生命予後が良いことや、合併症の罹患率が少ないことが報告されています。
また適正な人工腎臓(ダイアライザー)の選択、十分な血液流量(可能であれば300ml/min以上)も重要です。

栄養管理(低栄養対策・塩分制限・カリウム制限)

透析患者さんは標準体重(BMI=22)以下の方が多く、痩せている方の生命予後は不良でQOLも低下する傾向にあります。
標準体重を維持するためには十分なカロリーとバランスの良い食事を摂ることが大切です。
ただし塩分やカリウムの摂り過ぎには注意が必要です。

VA管理(AVF・AVG・動脈表在化・長期留置カテーテル)

血液透析は体外循環で行うため、血液を体外へ出し入れするバスキュラーアクセス(VA)はとても重要です。
VAには主に腕の動脈と静脈を繋ぐAVFや人工血管を使用するAVGなどがあります。
どちらも血管狭窄や血液凝固により閉塞する可能性があり、血液の流れる音や血管の拍動を毎日確認する必要があります。

適度な運動(サルコペニア・フレイル予防)

透析患者さんの運動能力は健常者の半分程度と言われています。
また運動能力は生命予後やQOLと深く関係していることが知られており、週1回の運動でも生命予後が改善すると言われています。運動能力低下防止のためには運動療法を行うことが重要です。
また運動療法はウォーキングなどの有酸素運動と筋トレなどのレジスタンス運動を組み合わせて行うとより効果的です。

11. 透析患者が利用できる制度

透析患者の経済的な負担が軽減されるように医療費の公的助成制度が確立しています。

特定疾病療養受領証:マル長

人工透析治療に対してのみ有効で、複数の医療機関で治療を受けられた場合は、医療機関ごとに自己負担限度額(1万円)を負担することになります。
※70歳未満で人工腎臓(人工透析)を実施している慢性腎不全の自己負担限度額については上位所得者(国民健康保険の算定の基礎となる基礎控除後の所得金額などが600万円を超える世帯)の 人は2万円となります。

手続き方法

社会保険に加入している方:勤務先の経理担当者に聞くか、直接保険者にご連絡下さい。
国民健康保険に加入している方:お住まいの市区町村の担当窓口でお手続きください。

心身障害者医療費助成制度:マル障

65歳未満で所得限度額を超えていなければ、心身障害者医療費助成制度をご利用いただけます。
また、65歳以上であっても身体障害者手帳が交付され、所得税や住民税などの税金の減免、鉄道やバス、飛行機などの割引などのサービスが受けられます。

手続き方法

お住まいの市区町村にある福祉課・障害者福祉担当課などで申請が行えます。

難病医療制度:マル都医療券

東京都にお住まいの方で特定疾病療養受領証とあわせて医療機関に提示することで、医療費自己負担を1医療機関につき上限1万円まで東京都が助成する制度です。。

手続き方法

最寄りの保健所。申請に必要な書類は区市町村の担当窓口でお渡しします。

12.Online(オンライン)-HDFとは

透析液の一部を直接血液回路内へ注入し、フィルター内で大量の濾過を行う血液浄化法です。
主な除去を拡散で行う透析(HD)に比べ、通常の透析では除去できない分子量の大きな物質の除去が可能になります。

オンラインHDFには透析液をフィルターの前から注入する前希釈と、フィルターの後ろから注入する後希釈がありますが、本邦では日本透析医学会で推奨されている前希釈が一般的です。

透析不足により起きると考えられている透析患者特有の皮膚掻痒症や、脚のムズムズが治まらないレストレスレッグ・シンドロームなどに効果があり、合併症予防や生命予後の改善効果などが期待されています。

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